舞根地区 自然環境MAP
Moune Nature Map
アナジャコ類の巣穴と地下水
舞根のどこで見られるか
舞根湾奥から湾中央にかけての海底には、高密度の穴が見られる。これらの多くは、アナジャコ類が掘ったものと考えられる。舞根には少なくとも3種類のアナジャコ類(アナジャコ、ヨコヤアナジャコ、バルスアナジャコ)がいるらしい。巣穴は舞根森里海研究所前の砂泥の斜面では特に高密度である。穴の中に隠れて暮らしているため、生きたアナジャコ類に出会う機会はなかなかないが、脱皮殻をみかけることは時々ある。穴から砂煙が上がっていることもしばしばある。アナジャコが中で水を動かしているため、このようになる。アナジャコは縦に深い穴を掘って中に隠れ、水をかき回して水中に漂う有機物を食べる。
舞根湾にはまた、テッポウエビも多くいる。テッポウエビはスジハゼと共生している場合が多く、スジハゼのいる巣穴を見ていると、せっせと穴を掘るテッポウエビが時々顔をのぞかせる。

写真1 アナジャコ類の脱皮殻.バルスアナジャコという種類の可能性が高いそうだ.

写真2 アナジャコ類の巣穴から水煙が出る様子

写真3 穴から出歩いていたテッポウエビ
(益田)
アナジャコの生態
アナジャコのような動物は海底に堆積している砂や泥を掘り込んでいって巣穴を作る。1匹のアナジャコが作る巣穴の入り口は2か所あり、地中で1本に繋がっている。その繋がった1本は海底トンネルのごとく、さらに地中深くに伸びていく。棲んでいるアナジャコが大きいほど巣穴は深くなり、体長が10センチほどまでに大きくなると、巣穴の深さは2 メートルに達することもある。アナジャコの餌は水中をただよう小さな浮遊物である。脚に生えた剛毛を使って巣穴の中の水をぐるぐると動かして水を入れ換えて、その水をろ過して餌を採る。
アナジャコのような動物は自分のために巣穴を掘っているだけだが、結果として、単純な海底に複雑な構造を作り出している。複雑な構造は海と地下を繋ぐなど、生態系の物理・生物環境を大きく変えることになる。このような動物はエコシステムエンジニアと呼ばれる。
(千葉)
アナジャコの巣穴と地下水
河口の干潟でアナジャコの巣穴を観察すると、穴の中から水が 絶えず流れ出したり、時折勢いよく吹き出したりしていることがわかる。実際にどの程度の水が湧き出しているのかを調べるため、直径3cm程度の細い塩ビパイプでアナジャコの巣穴を覆い、先端に袋を取り付けて水をためて測定した。その結果、1時間あたり200~500ml もの海水が湧き出していることが確認された。
巣穴の開口部は1平方mあたり約88個(巣穴数としては半分の44個)あり、概算すると1日・1平方mあたり約770リットルもの水が流出していることになる(浴槽4杯程度)。さらに、この水には周囲の海水よりも高い濃度の窒素やリンが含まれていた。河口干潟全体の巣穴から流出する窒素量は、平水時の河川(東舞根川+西舞根川)から供給される量の約10%、リンでは約30%にも及んでおり、アナジャコの巣穴を通じて、栄養豊富な水が森から海へと供給されていることが明らかとなった。
(杉本)
執筆者:益田玲爾(京都大学 フィールド科学教育センター・教授)、千葉晋(東京農業大学 生物産業学部・教授)